AGVやAMRを導入しようと考えている企業にとって、その「誘導方式」の選択は、効率的な運用とコスト削減を左右する重要な要素です。しかし、多くの選択肢がある中で、最適なAGV/AMRの誘導方式を見極めるのは容易ではありません。
この記事では、物理ガイド誘導からSLAMベース自律走行まで、AGV/AMRの誘導方式を詳しく解説します。例えば、ある倉庫ではレーザー・反射板誘導が適しているかもしれませんし、別の製造現場ではハイブリッド誘導が有効かもしれません。それぞれの方式のメリットとデメリットを理解し、具体的な導入シーンに合わせた推奨誘導方式を紹介します。AGV/AMR導入における最適な誘導方式の選択に悩んでいる方は、この記事を読むことで、効率的な運用を実現するための具体的な方向性を見つけることができるでしょう。
AGV/AMRの誘導方式の4分類
AGV/AMRの誘導方式は、大きく以下の3タイプに分類できます。
- 物理ガイド誘導
- SLAMベース自律走行
- ハイブリッド誘導
以下、それぞれの特徴を表と解説で詳しく見ていきます。
物理ガイドによる誘導
誘導方式 | 概要 | 特徴 | 適用例 |
---|---|---|---|
磁気テープ | 床面に磁気テープを貼付 | 安価・簡単・変更不可 | 工場内の固定ルート |
光学ライン | 黒線/白線をカメラやセンサーで認識 | 安価・光に弱い | 小型ライン構内 |
ワイヤ誘導 | 床下にワイヤを埋設し磁界を検出 | 極めて安定・変更不可 | 重量物搬送 |
レール誘導 | 専用レールを敷設し車両を誘導 | 極安定・柔軟性なし | 定常搬送ライン |
QRコード誘導 | 床や壁に設置されたQRを読み取る | 定点補正・コスト低 | 倉庫内ゾーン移動 |
磁気テープ
磁気テープは、主に倉庫や工場内でのAGVやロボットの誘導に使用される古典的な技術です。この誘導方法では、床に敷設された磁気テープの上を車両が走行し、磁気センサーがテープの位置を検知しながらAGVの進行方向を制御します。磁気テープによる誘導方式の利点は、設置コストが比較的低く、既存のインフラに簡単に統合できるため、初期導入が容易である点です。特に、直線的なレイアウトや単純な走行パターンにおいては、シンプルかつ効果的な誘導方法として広く利用されています。
一方、磁気テープによる誘導方式には限界もあります。例えば、走行経路を変更する際には、新たにテープを敷設する必要があり、柔軟性に欠ける点が挙げられます。また、磁気テープの経年劣化や物理的な損傷による誘導精度の低下も問題となることがあります。このため、磁気テープによる誘導方式は、安定した経路が必要とされる場面や、コストを重視した短期的な運用に適していると言えます。
光学ライン
光学ラインによる誘導方式は、AGV/AMRが床に設置された光学的なラインをカメラや光センサーで検出し、それに沿って移動する方式です。この誘導方式は、特に製造業や物流センターなど、一定のルートがあらかじめ決まっている環境で広く用いられています。光学ラインの利点は、設置コストが比較的低く、ラインの変更が容易であることです。例えば、工場のレイアウトが変わる際には、ラインを引き直すだけで簡単にルートを変更できます。また、誤差が少なく安定した走行が可能であるため、精度が求められる環境でも効果的です。
しかし、光学ラインによる誘導方式にはいくつかの制約も存在します。床面の汚れや障害物がラインを遮ると、センサーがラインを正確に検出できず、AGV/AMRの誤動作を招く可能性があります。さらに、AGV/AMRに柔軟性が求められる複雑な環境や、動的に変化するルートには適していないため、他の誘導方式と組み合わせて使用するケースもあります。それでも、光学ラインはそのシンプルさと経済性から、多くの業界で採用され続けています。
ワイヤ誘導
ワイヤによる誘導方式は、床面や地中に埋設された電線をガイドラインとして使用し、これに沿ってAGVが誘導されます。ワイヤから発信される信号を受信することで、AGVは自身の位置を正確に把握し、決められた経路をたどることが可能です。特に、倉庫や工場などの定型的な環境において、効率的で安定した移動を実現するために広く利用されています。
ワイヤによる誘導方式の最大の利点は、その信頼性と低コストです。電線の設置には一定の初期投資が必要ですが、一度設置してしまえば、日常的なメンテナンスがほとんど不要で、長期間にわたって安定した性能を発揮します。また、他の誘導方式と比べて外部環境の影響を受けにくく、動作が非常に安定しているため、厳しい環境条件下でも高い精度での運用が可能です。
ただし、経路の変更が必要な場合には、電線の再敷設が必要となるため、柔軟性に欠ける点が課題とされます。また、ワイヤの検出精度が限られているため、細かな動作制御が要求される場面では他の誘導方式との併用が検討されることがあります。
レール誘導

レールによる誘導方式は、AGVが床面に設置された物理的なレールを追従することで、正確かつ安全に目的地までの移動を行います。レールは金属やプラスチックなどで構成されることが一般的で、設置後のメンテナンスが少ないため、長期的な運用においてコスト効果が高いとされています。また、レール誘導は経路が固定されているため、予期せぬ障害物が少なく、運行の安定性が確保されます。
この誘導方式は、特にAGVが一定の経路を何度も繰り返し移動する必要がある工場や倉庫での利用に向いています。レールの設置には初期投資が必要ですが、システムの信頼性と効率性を考慮すると、多くの企業にとって魅力的な選択肢となります。さらに、レール誘導は他の誘導方式と比べて、AGVの制御が簡単であるため、システムの導入や運用における技術的なハードルが低い点もメリットです。
一方で、柔軟性の面では制約があり、経路の変更や拡張には時間とコストがかかることがデメリットとされています。
QRコード誘導

QRコードによる誘導方式は、AGV/AMRのナビゲーションにおいて、柔軟性とコスト効率を兼ね備えた方法として注目されています。この方式では、地面や壁に設置されたQRコードをAGV/AMRがカメラで読み取り、位置情報や進行方向を判断します。QRコードは、印刷が容易で設置や変更が簡単なため、レイアウトの頻繁な変更が求められる環境において特に有効です。また、QRコード自体が情報を持つため、単なる位置情報だけでなく、タスク指示や経路の選択情報を提供することも可能です。したがって、QRコードによる誘導方式は、初期投資を抑えつつも、効率的で柔軟な自律走行を実現したい企業にとって、有力な選択肢となっています。
SLAMベース自律走行
SLAM方式誘導方式とは
SLAMとは、「Simultaneous Localization and Mapping」の略で、日本語では「自己位置推定と地図構築」と訳されます。この技術は、AGV/AMRが環境の中で自らの位置を把握し、同時に周囲の地図を作成するために用いられます。SLAMは、レーザーセンサーやカメラなどのセンサーデータを利用して、リアルタイムで環境を認識し、AGV/AMRが障害物を避けながら目的地に到達できるようにします。
従来の誘導方式と異なり、SLAMは事前に設置された物理的なガイドを必要としません。そのため、導入コストを抑えつつ、柔軟な運用が可能となります。特に、工場や倉庫内のレイアウトが頻繁に変わる環境においては、SLAMの柔軟性が大きな利点となります。さらに、SLAM誘導方式の技術は自己学習能力を備えており、過去の走行データを基により効率的なルートを自動で計画することができます。
また、SLAMを活用することで、AGV/AMRが初めての環境でも迅速に適応し、自律的にナビゲーションを行うことが可能です。SLAM方式は、技術的な進化と共により高度な機能を提供し続けており、今後の自律移動システムの中核を担う技術といえるでしょう。
誘導方式 | 使用センサ | 特徴 | 適用例 |
---|---|---|---|
LiDAR SLAM | 2D/3D LiDAR | 高精度・屋内最適 | 工場・物流倉庫 |
ビジュアルSLAM | カメラ(RGB/深度) | 狭所・低照度に弱 | 小規模施設・研究 |
マルチモーダルSLAM | LiDAR + カメラ + IMU | 高コスト・高精度 | 大型施設、屋外も対応可 |
LiDAR SLAM
LiDAR SLAM(Light Detection and Ranging Simultaneous Localization and Mapping)は、移動体の位置推定と環境地図作成を同時に行う技術です。この技術は、レーザー光を用いて周囲の環境を高精度にスキャンし、得られた点群データを基にリアルタイムで位置を特定しながら、地図を構築します。LiDARは、物体までの距離を正確に測定できるため、動的環境でも高い精度での自律走行が可能です。特に、屋内外を問わず、障害物の多い環境やGPS信号が届かない場所でも機能するため、ロボティクスや無人車両での利用が進んでいます。SLAM技術の中でもLiDARを用いた手法は、視覚情報に頼らないため、暗所や視覚的特徴が乏しい場所でも高い信頼性を維持します。さらに、LiDAR SLAMはリアルタイムで環境の変化に対応し、移動体が動きながら作成する地図に基づいて最適な経路を選択することができます。このため、複雑な環境でも柔軟な経路計画が可能であり、物流倉庫や製造現場、さらには探索ロボットの分野で幅広く利用されています。技術の進化に伴い、LiDARセンサーの小型化やコストダウンも進んでおり、今後ますます多様なアプリケーションでの活用が期待されます。
ビジュアルSLAM
ビジュアルSLAMは、カメラを用いて環境の地図を作成しながら、自身の位置を同時に特定する技術です。この技術は、ロボットや自動運転車、ドローンといった自律移動システムにおいて非常に重要な役割を果たしています。ビジュアルSLAMの特徴は、カメラを使って周囲の視覚情報を取得することで、より詳細でリアルタイムな環境認識が可能な点にあります。これにより、物理的なセンサーに頼らず、複雑な環境でも高精度な自己位置推定が実現できます。
ビジュアルSLAMは、主に特徴点抽出、マッチング、トラッキング、地図構築の4つのステージで構成されています。まず、カメラで撮影した映像から特徴点を抽出し、それらを連続するフレーム間でマッチングします。このプロセスを通じて、移動体の動きや周囲の物体の位置をトラッキングします。同時に、これらの情報を基に環境の3D地図を構築していきます。
この技術を使用することで、移動体はリアルタイムで環境変化に対応し、障害物を避けながら効率的なルートを選択できます。特にGPS信号が届かない室内や地下、都市部の高層ビルの間といった場所での自律走行において、その有用性が際立ちます。また、ビジュアルSLAMは低コストでの実装が可能なため、小型のロボットや家庭用デバイスにも応用され始めています。これからの技術革新により、さらに多様な応用が期待される分野です。
マルチモーダルSLAM
マルチモーダルSLAMは、複数のセンサーを活用して同時に自己位置推定と環境地図の構築を行う技術です。従来のSLAMは主に単一のセンサーに依存していましたが、マルチモーダルSLAMでは、カメラ、レーザー、IMU(慣性測定装置)、超音波センサーなどの多様なデータを統合することで、より精度の高いナビゲーションとマッピングを実現します。このアプローチの利点は、異なるセンサーの特性を組み合わせることで、単一のセンサーでは対応が難しい環境や状況に適応できる点にあります。たとえば、視界が悪い場所ではレーザーセンサーが役立ち、障害物が多い環境ではカメラが詳細な情報を提供します。さらに、これらのセンサーから得られるデータをリアルタイムで処理し、動的に変化する環境に対しても迅速に対応可能です。マルチモーダルSLAMは、特に産業用ロボットや自動運転車、ドローンなど、精度と信頼性が求められるアプリケーションでの利用が進んでいます。これにより、複雑な環境でも確実に自己位置を把握し、効率的な移動を可能にするだけでなく、未知の領域でも安全に活動を行うことができるようになります。この技術の発展により、ロボティクスの分野での自律性と柔軟性がさらに向上し、新しい応用シナリオが次々と生まれています。
ハイブリッド誘導
誘導方式 | 概要 | 特徴 | 代表例 |
---|---|---|---|
SLAM + QR補正 | SLAMの誤差をQRで補正 | 柔軟性 + 精度 | 自動倉庫型AMR |
磁気 + SLAM | 幹線は磁気、枝路はSLAM | 安定+拡張 | 工場〜倉庫一体型現場 |
SLAM + QR補正
SLAMは、カメラやレーザーセンサーからのデータを利用して、環境をリアルタイムでマッピングすることを可能にします。しかし、SLAM単独ではセンサーの誤差や環境の変化に影響されることがあり、その精度には限界があります。そこで、QRコードを用いた補正技術を組み合わせることで、より高精度な位置推定と地図作成が可能になります。
QRコードは、既知の位置情報を持つマーカーとして機能し、SLAMによって生成された地図の精度を補正する役割を果たします。これにより、SLAMが得意とするダイナミックな環境変化に対応しつつ、QRコードを活用して静的な補正ポイントを提供することができます。例えば、工場内のAMRは、移動しながらQRコードを読み取り、位置を再確認することで、長期間にわたって安定した動作を保証します。
このSLAMとQR補正の組み合わせにより、従来の誘導方式では難しかった複雑な環境下でも精度の高い自律走行を実現します。この技術は、倉庫や製造業の現場において、効率的な在庫管理や製品搬送を可能にし、作業の自動化を大幅に進展させることが期待されています。また、柔軟性の高いシステム設計が可能となるため、導入コストやメンテナンスの負担を軽減し、さまざまな業種での応用が進んでいます。SLAMとQR補正の融合は、次世代のロボティクス技術の中核を成すでしょう。
磁気 + SLAM
磁気誘導とSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)は、それぞれ独自の強みを持つ技術ですが、これらを組み合わせることで自律走行システムの精度と柔軟性を飛躍的に向上させることができます。磁気誘導は、床に埋設された磁気テープや磁石を利用して正確なルートを提供するため、安定性と信頼性に優れています。一方、SLAMは周囲の環境をリアルタイムでスキャンし、地図を作成しながら自己位置を特定する技術で、動的な環境にも対応可能です。この2つの技術を統合することで、磁気誘導の安定したルート設定能力と、SLAMの環境適応性を組み合わせたハイブリッドなナビゲーションが実現します。
このハイブリッドアプローチは、特に複雑な施設内や頻繁にレイアウトが変更される環境での運用において、AGV/AMRの効率的な動作を可能にします。例えば、倉庫内での商品のピッキング作業や製造ラインでの資材運搬など、様々なシーンで活用が期待されています。磁気誘導は決まったルートに沿って精度の高い移動を保証し、SLAMは新たな障害物や変化に即座に対応することで、運用の柔軟性を確保します。また、SLAMの地図作成能力により、施設のレイアウト変更があった場合でも迅速に対応可能です。このように、磁気とSLAMを併用することで、次世代の自律走行システムが、より高度で柔軟な運用を実現します。
導入シーン別の推奨誘導方式
導入シーンに応じた最適な誘導方式の選択は、効率的な自動化の鍵を握っています。例えば、工場や倉庫内での物流作業において、物理ガイド誘導は高精度なルート設定が可能で、比較的コストパフォーマンスが高い選択肢です。一方、柔軟性が求められる環境では、SLAMベース自律走行が力を発揮します。これは、動的な環境においても即座に適応し、高度なナビゲーションを実現します。マーカー/ターゲット誘導は、特定のポイント間を確実に移動する必要があるシーンで有効です。レーザー・反射板誘導は、広範囲での正確な位置決めが求められる場合に最適です。最後に、ハイブリッド誘導は、異なる誘導方式のメリットを組み合わせることで、複数のシーンでの汎用性を高めます。各誘導方式の特性を理解し、導入シーンに応じて最適な方式を選定することで、効率的かつ効果的な自動化を実現できます。
現場条件 | 推奨方式 | 理由 |
---|---|---|
レイアウト固定・低予算 | 磁気テープ、QR誘導 | コスト低・ルート固定でも支障なし |
レイアウト変更頻繁 | SLAM系誘導 | 柔軟性が高く、自己位置推定可能 |
高精度必要・安全重視 | SLAM + LiDAR | 高精度・障害物回避が可能 |
部分的自律化で拡張性維持 | ハイブリッド誘導 | 安定性と将来対応力を両立 |
まとめ:最適な誘導方式を選ぶには?
誘導方式の選定は、AGV/AMR導入の現場環境・将来の拡張性・安全性・コストなどのバランスをふまえて、以下の視点で総合判断することが重要です:
- 現場の物理条件(床・通路・照明)
- 将来的なレイアウト変更の頻度
- 導入予算と保守体制
- 自動化の目的(省人化、安全性、効率化)
PhoxterによるAGV/AMRの誘導方式のサポート
Phoxterは、工場や物流倉庫に対して、自動搬送ロボットを用いた自動化・省人化ソリューションを提供しており、2,000台以上の導入実績があります。企業のニーズに合わせた提案が可能ですので、AGV/AMRの誘導方式を知りたい方や、工場・物流施設の自動化をお考えの方は、ぜひPhoxterにお問い合わせください。