2025年2月11日更新
現代の技術は、さまざまな分野において大きな進化を遂げています。中でも、金融、製造業などでは、ルールベースと、機械学習をはじめとする高度なAI技術を有効に活用する動きが進んでいます。ルールベースは、事前に設定されたルールや条件に基づいて動作し、特定のタスクに対する高い精度と効率を実現します。一方、機械学習などのAI技術はデータから学習し、より複雑で予測不可能な問題にも対応可能です。このルールベースとAIのアプローチにはそれぞれの強みと限界があり、企業はそれらをどのように活用するかを検討しています。このコンテンツでは、ルールベースとAIの特性を理解し、最適な選択をするための指針を提供します。
本記事は、AIとルールベースのハイブリッド型画像処理システムを自社開発し提供している株式会社Phoxterが作成しています。(Phoxterの外観検査自動化ソリューションはこちら)
ルールベースとAIの特徴と違い
ルールベースとAIは、画像処理やデータ解析の分野で異なるアプローチを提供します。
ルールベースの特徴
ルールベースのシステムは、専門家が事前に設定した一連のルールや条件に基づいて動作します。これは、特定の状況やパターンが発生したときに特定のアクションを実行するように設計されており、明確な条件がある場合に非常に効率的です。例えば、ルールベースのシステムは、製品の寸法が許容範囲内にあるかどうかを確認する場合に有効です。
AIの特徴
一方、AI(人工知能)はデータから学習し、経験に基づいてパターンを認識する能力を持っています。AIは膨大なデータセットを分析し、その中から規則性や異常を見つけ出します。これにより、AIは事前に明示的に定義されていない状況や未知のパターンにも対応できます。特に、AIは複雑な画像認識や自然言語処理の分野で強力なツールとなります。
ルールベースとAIの違い
ルールベースとAIの主な違いは、システムが新しい状況にどのように適応するかにあります。ルールベースのシステムは、設定された条件に従うため、予測可能で安定した結果を提供しますが、新しい条件に対しては柔軟性が限られています。対照的に、AIは学習プロセスを通じて常に進化し、予測できない状況にも対応する能力があります。このため、AIは長期的に見て柔軟性と適応性を提供しますが、学習プロセスには時間とデータが必要です。
どちらのアプローチにも利点と欠点があります。ここでは、双方の特徴について詳しく解説していきます。

ルールベース、AIのメリット・デメリット
ルールベースのメリット
- 安定した性能と予測可能性:ルールベースのシステムは、特定の条件や基準を明確に設定することで、さまざまな分野で安定した性能を発揮し、予測可能な結果を保証します。金融業界では不正取引の検出に活用され、誤検出のリスクを低減します。
- 業務フローへの統合とプロセス改善:ルールベースのシステムは、既存の業務フローに簡単に統合でき、業務全体のプロセス改善を促進します。機能のカスタマイズや拡張が容易で、企業のニーズに柔軟に対応可能です。
- 迅速な環境変化への対応:ルールの変更や追加が容易であるため、業務環境の変化にも迅速に対応でき、長期的な視点での運用が見込まれます。
ルールベースのデメリット
- 専門知識が必要:ルールベースのシステムは、特定の条件に基づいた明確な判断基準を設定することで、特定のタスクの自動化に有効ですが、ルールの設定には専門知識が必要です。各ルールは詳細かつ具体的に定義される必要があり、これには多くの時間とリソースを要します。
- システムの複雑さとメンテナンスの難しさ:ルールが増えるとシステムの複雑さが増し、メンテナンスが困難になることがあります。ルールの変更や追加が必要な場合、その度にシステムを手動で更新しなければならないため、柔軟性に欠けるのも課題です。
- 適応力の低さ:ルールベースのシステムは、予測不能な状況や新たな変化に対して適応力が低いため、環境の変化に迅速に対応するのが難しいという制約があります。例えば、画像検査においては、新しい欠陥の発見や製品の仕様変更に対して、ルールをその都度見直す必要があり、これが運用の負担となります。
- 自己学習能力の欠如:AIのようにデータに基づく自己学習能力がないため、ルールベースは事前に設定された条件外の事象に対しては柔軟に対応できません。このため、ルールベースシステムだけでは多様な問題に対応しきれない可能性があり、特に複雑で変化の激しい環境においては、AIとのハイブリッドアプローチが求められることが多くなっています。
ルールベースと比較したAIのメリット
AIの最大のメリットは、その適応性と学習能力にあります。
ルールベースのシステムは、事前に設定されたルールに従って動作するため、特定の条件下では非常に正確な結果を出すことが可能です。しかし、新たな状況や予期せぬ変化に対しては、ルールの追加や修正が必要となり、柔軟性に欠けることがあります。一方、AIは大量のデータからパターンを学習し、自ら最適な判断を行えるため、環境の変化に迅速に適応できます。特に画像検査の分野では、AIは微細な欠陥や異常を検出する能力に優れており、人間の目では見逃してしまうような細かな部分も検出することができます。
また、AIはその学習過程で得た知見を蓄積し、データ量が増えるほど精度が向上するという利点もあります。さらに、AIは異なる検査工程にも適応でき、異なる製品ライン間での再利用が容易です。これにより、企業は長期的に見てコスト削減を図ることができ、メンテナンスの手間も少なくなります。AIの導入は初期投資が必要ですが、その後の運用コストの削減や生産性の向上を考えると、非常に有益な選択肢となるでしょう。
このように、AIはルールベースシステムの制約を補い、より効率的で柔軟な運用を可能にします。AIの導入により、企業は市場の変化や新しい製品ラインへの迅速な対応が可能となり、競争力を高めることができるのです。
ルールベースと比較したAIのデメリット
AI技術は、その柔軟性と自動化の能力から多くの業界で注目を集めていますが、ルールベースのシステムと比較するといくつかのデメリットが存在します。
まず、AIシステムの開発には大量のデータが必要です。これは、AIが適切に学習し、正確な予測や判断を行うために欠かせませんが、データ収集や前処理には多大な時間とコストがかかることがあります。
さらに、AIの予測や判断がブラックボックス化しやすく、なぜその結果に至ったのかを説明するのが難しい場合があります。これに対し、ルールベースのシステムは明確なルールに基づくため、結果の解釈が容易です。
また、AIは状況の変化に対して再学習が必要となるため、メンテナンスが複雑化する可能性があります。アルゴリズムの更新や改善には専門知識が求められ、運用中のシステムに直接影響を及ぼすリスクも考慮しなければなりません。さらに、AIは誤った学習をするリスクがあり、これにより誤った判断を行う可能性があるため、継続的な監視が必要です。
これらの要因は、特に高い精度が求められる分野や、説明責任が重視される業界において、導入のハードルとなることがあります。AIの導入を検討する際には、これらのデメリットを理解し、適切な対策を講じることが重要です。
ルールベースやAIの活用事例

製造業における品質管理
製造業では、製品の品質を維持するためにルールベースが活用されています。特定の条件に基づいて製品の不良を検出し、製造プロセスを制御することが可能です。製品の特定の属性に基づいて判定ルールを設定し、自動的に品質を管理することができます。
AIでは、製造プロセスから得られる大量のデータを使用して、品質に影響を与える要因やパターンを学習します。AIの活用により、異常な振る舞いや品質の低下を予測し、問題を事前に防ぐことができます。
金融取引の監視
金融取引の監視においても、ルールベースが用いられています。特定の取引パターンや条件に基づいて不正取引やリスクを検出し、即座に対処することが可能です。
AIでは、過去の取引データを分析し、異常な取引パターンを特定することができます。AIの活用により、不正行為やリスクを自動的に検出し、適切な対策を講じることが可能です。
カスタマーサポート
カスタマーサポートの事例では、ルールベースを有効に活用し、顧客からの問い合わせに対して自動応答を行ったり、特定の問題に対する解決策を提供したりすることができます。顧客サポートの効率化や利便性向上に貢献します。
AIでは、過去の顧客問い合わせや解決策の履歴を学習し、新しい問題に対して適切な回答を提供することができます。AIを上手く活用することで、顧客の問題解決を迅速かつ効果的に行うことができます。
医療診断
医療分野の事例としては、ルールベースにより、患者の症状や検査結果に基づいて疾患を診断するために活用されています。特定の症状パターンや治療法に関するルールを適用し、診断をサポートします。医師が迅速かつ正確に疾患を診断し、適切な治療を行うことができます。
AIでは、大規模な医療データセットからパターンやトレンドを抽出し、疾患の予測や診断を支援します。AIの活用により、より正確な診断結果を提供し、医療の質を向上させることが可能です。
セキュリティ
セキュリティ分野では、ルールベースが不正アクセスや侵入を検出するために利用されています。特定の不審な動きやパターンに基づいて警告を発することが可能です。システムやネットワークへの不正なアクセスを防止し、セキュリティを強化することができます。
AIでは、ネットワーク上の通常の振る舞いや異常を学習し、未知の脅威や攻撃を特定することができます。AIの活用により、リアルタイムでセキュリティ対策を強化し、データの保護を行うことが可能です。
画像検査におけるルールベースとAI
画像検査におけるルールベースとAIの重要性
画像検査では、正確で迅速な判定が求められます。ルールベースとAIの組み合わせは、その要求を満たすための重要な手法です。ルールベースは特定のパターンや条件に基づいて画像を解析し、AIはデータから学習してパターンを抽出します。
ルールベースのアルゴリズム
エッジ検出
エッジ検出は、画像内の輪郭や境界線を抽出するための手法です。エッジ検出は、製造業において部品の輪郭を検出し、部品と背景を分離する前処理などに利用されます。また、製品の特徴を検出し、品種分類を行う際にも利用される活用範囲の非常に広いアルゴリズムです。
ヒストグラムに基づく閾値処理
画像の輝度値に基づいてヒストグラムを作成し、特定の閾値を超える領域を抽出する手法です。例えば機械部品の製造ラインでは、歯車や軸受などの部品の表面に微細な傷やへこみがあると、正常な動作を妨げる可能性があります。こうした微細な欠陥を検出するために、ヒストグラムに基づく閾値処理が使用されます。
形状検出
特定の形状やパターンを検出するためのルールベースのアルゴリズムです。特定の幾何学的な特徴を持つ物体を識別するのに役立ちます。工業製品の製造過程で特定の部品の形状を検出し、製造プロセスを制御することが可能です。
テクスチャ解析
画像内のテクスチャやパターンを解析するための手法です。異なる材質や質感の領域を識別し、分類することが可能です。入力画像から異常なテクスチャを分析し、良品との識別を行ったり、品種の分類などを行うことができます。
テンプレートマッチング
あらかじめ用意されたテンプレート画像と入力画像を比較し、類似度に基づいて物体の検出や位置推定を行う手法です。製造業において特定の製品パーツの位置を正確に特定する際に利用されます。
AIのアルゴリズム

異常検知
異常検知は、通常のパターンから逸脱した画像を検出する手法です。学習データに基づいて異常パターンを識別し、異常を検出します。製造ライン上で異常な製品を検出する際に、AIによる異常検知が活用されます。
画像分類
画像をあらかじめ定義されたクラスに分類するタスクに使用されるアルゴリズムです。画像の特徴を学習し、各クラスに対する確率を計算します。製造ラインでは部品の品種分類などに用いられます。
物体検出
画像内の物体の位置とクラスを同時に推定するタスクに使用されるアルゴリズムです。物体の境界ボックスとクラスラベルを予測します。自動運転車両において道路上の障害物を検出する際などに利用されます。
セグメンテーション
画像内のピクセルをクラスに分類するタスクに使用されるアルゴリズムです。画像内の各ピクセルに対してクラスラベルを予測し、物体領域を特定します。例えば医療画像から特定の臓器や組織の領域を分割する際などに利用されます。
画像処理アルゴリズムを詳しくお知りになりたい方は、こちらの記事をご覧ください。
ルールベースとAIを用いたソリューション紹介
Phoxterの「AI StellaController」はAI+ルールベースのハイブリッド検査により、無駄の削減効果が期待できる商品です。従来の「ルールベース」画像処理では、最適な「ルール」と「閾値」を見つけるのが困難でした。「AI StellaController」は、「NG品」と「良品」の学習により自動検査を実現します。データのばらつきがあっても安定した検査が可能で、不良流出リスクや廃棄コストを最小限に抑えます。製品の不良流出リスクや再検査、装置コストの削減を実現しました。「AI StellaController」は幅広い工程に適用可能で、3ステップで簡単に操作できます。ユーザーインターフェースは、設定画面の切り替え不要で操作が完結するため、使いやすく、誰でも簡単に導入することが可能です。学習と現場での検知を繰り返すことで、より高精度な検査ができるようになります。「AI StellaController」は、品質管理の革新と生産プロセスの無駄削減を実現します。
(PhoxterのAI+ルールベースのハイブリッド外観検査の詳細はこちら)
ルールベースとAIのまとめ
今回はAIとルールベースの違いについて紹介しました。それぞれの特徴や利点、欠点について詳しく見ていきました。また、製造業や金融取引、カスタマーサポート、医療診断、セキュリティなど、それぞれの分野での活用事例も挙げました。さらに、画像検査におけるルールベースとAIの重要性、アルゴリズムの具体的な説明、そしてPhoxter の「AI StellaController」という具体例を通して、両者の有用性と潜在的な応用範囲について解説しました。
ルールベースとAIの組み合わせにより、高度な画像検査技術が実現され、製造業や医療分野など多くの分野で利用されています。今後も両者の統合や新たなアルゴリズムの開発が進み、画像検査技術のさらなる発展が期待されます。